泥の上に、鉛筆を立てたような根が何本も並んでいます。下へ伸びるはずの根が、なぜ上へ向かうのでしょう。その役割は、酸素の乏しい泥の中にある根へ、空気中の酸素を届けること。今回はマングローブ植物の一種、ヒルギダマシ(Avicennia marina)の「呼吸根」を通して、かたちと生きる仕組みの関係を見ていきます。
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結論|地下の根へ酸素を届けるため
上向きの呼吸根は、地下の根と空気をつなぐ部分です。泥の上に出た表面から酸素を取り込み、根の中に続く空気の通り道を介して、地下の根の呼吸を支えています。
仕組みを5つに分けて見る
① 泥では酸素が不足

ヒルギダマシが育つのは、潮の満ち引きで水につかる場所です。水をたっぷり含む泥では、空気中ほど速く酸素が広がりません。表面近くに酸素があっても、泥の奥まで十分に届くとは限らないのです。
植物は光合成をしますが、根の細胞も生きるために呼吸をし、酸素を使います。根にとっては、水があるだけでなく、酸素を得られることも大切です。
② 根を空気へ伸ばす

ヒルギダマシの根は、泥の浅いところを横に走っています。そこから上向きに枝分かれし、泥の表面を突き抜けるのが呼吸根です。地面に別の苗が生えているのではなく、地下で同じ木の根につながっています。
細長い形は、泥に埋まった根の一部を空気に触れさせます。上向きに伸びる性質をもつ根であって、普通の根が潮のたびに持ち上がるわけではありません。
③ 表面から酸素を取り込む

呼吸根の表面には、「皮目(ひもく)」と呼ばれるガス交換の出入り口があります。空気に出ている部分の皮目などを通して、酸素が根の内部へ入ります。
先端に大きな穴が開いた管ではなく、根の先端は薄い根冠に覆われています。空気との接点になるのは、主に表面の皮目です。
④ 根の中を通って地下へ

呼吸根の内側には、空気を含むすき間が発達した「通気組織(つうきそしき)」があります。このすき間は地下の横向きの根や細い根へと続き、酸素の通り道になります。
酸素は主に、濃度の高い側から低い側へ広がる「拡散」で移動します。根の中心が一本の空洞なのではなく、組織の中に空隙がつながっています。
⑤ 潮が引く時間を生かす

潮が満ちて呼吸根がすべて水に沈むと、空気からの酸素補給は制限されます。根の呼吸は続くため、内部の酸素は減っていきます。水没しても、空気中と同じように補給できるわけではありません。
潮が引き、表面が再び空気に出るとガス交換が戻ります。根の形だけでなく、空気に触れる時間も酸素の補給を左右します。雨などで表面がぬれていると、露出していてもガス交換が妨げられることがあります。
もう少し詳しく|向きの違いが、役割の違い
地上に出る呼吸根、泥の中を横に広がる根、枝分かれした細い吸収根。ヒルギダマシの根は、一つの形だけでできていません。細い根は水や養分を吸収し、ほかの根とつながって働きます。デザインという視点で見ると、空気を取り入れる場所と、水や養分を吸収する場所を分け、地下でつなぐ仕組みと捉えられます。上向きの根だけでなく、その先のつながりまでが一つの働きを担っています。
よくある疑問
どのマングローブも、同じ根をもっていますか?
いいえ。「マングローブ」は一つの植物の名前ではなく、潮の影響を受ける海岸に育つ樹木・低木の総称です。根の形は種類によって異なり、今回の鉛筆状の呼吸根はヒルギダマシの例です。
出典:Smithsonian Ocean「Mangroves」 / 環境省「ヒルギダマシ」
タコ足のような支柱根とは、何が違いますか?
今回の呼吸根は、地下の横根から上へ伸びます。一方、ヤエヤマヒルギなどの支柱根は、幹などから外へ張り出して泥に入り、木を支えます。支柱根にもガス交換の役割があり、「支える根」と「呼吸する根」に完全に分けられるわけではありません。
まとめ
ヒルギダマシの上向きの根は、酸素の乏しい泥の中に、空気とのつながりをつくる形です。
- 泥の上に出た呼吸根の表面で、ガス交換する。
- 通気組織の空隙を通って、酸素が地下へ広がる。
- 潮が引いて空気に触れる時間が、酸素補給を支える。

参考資料・出典
- 環境省「ヒルギダマシ」
- NOAA「Coastal Blue Carbon」
- Smithsonian Ocean「Mangroves」
- Haoほか(2021)呼吸根の構造と発達
- Hovenden・Allaway(1994)呼吸根表面の酸素透過
- Allawayほか(2001)根の空隙と酸素交換
- Inoueほか(2024)根の構造と気根を介した窒素固定
資料確認:2026年10月21日。公的資料と研究論文をもとにした解説です。


