図解屋 / 生物のデザイン / HB
乾いた松ぼっくりを水につけると、開いていた鱗片が閉じていきます。雨を感じて、生きものとして動いているのでしょうか。答えは、組織が水分を吸ったときに生まれる「伸び方の差」。身近な開閉運動から、材料と形がつくる仕組みを見てみます。
目次を開く閉じる

結論|組織の伸び方が違うから
ぬれると閉じるのは、鱗片を構成する組織の伸び方に差があり、その差が曲がる動きになるからです。成熟した松ぼっくりは、死んだ組織の性質を利用して受動的に開閉します。[1][4]
仕組みを5つに分けて見る
① 水分を取り込む

松ぼっくりの一枚一枚のうろこ状の部分を「鱗片(りんぺん)」といいます。成熟した鱗片の動きは、細胞が生きて命令を出す運動ではありません。残された細胞壁が水分を取り込んだり、放したりすることで生じます。
液体の水にぬれたときだけでなく、空気中の水蒸気も細胞壁が取り込みます。周囲の相対湿度が変わると、細胞壁の含水状態が変わり、開き具合も変化します。「ぬれる」と「湿度が高い」は同じ条件ではありませんが、どちらも組織に含まれる水分を変えるきっかけになります。[1]
② 伸び方に差が出る

伸び方の差を生む鍵は、細胞壁の「補強繊維の向き」です。水を含むと細胞壁の基質は膨らみますが、硬いセルロース微繊維が、微繊維に沿う向きの伸びを抑えます。そのため、基質の膨張は主に微繊維と直交する向きに現れます。よく伸びる厚壁異形細胞では、微繊維が細胞の周囲に帯状に巻き、太る方向を制約する一方、長さ方向には伸びやすくなっています。対する厚壁繊維では、微繊維が細胞の長軸に近い向きに並ぶため、長さ方向の伸びが小さくなります。[2]
つまり「水を吸う側と、吸わない側」の違いではなく、吸水してもどちらへ膨らめるかの違いです。こうした組織がつながっているので、伸びの差が鱗片の曲がりに変わります。図は配向の違いを強調した模式図で、巻き角を正確に再現したものではありません。細胞壁内の微繊維と、細胞が集まった繊維束は、異なる大きさの構造です。
③ 根元が曲がり、閉じる

鱗片は、独立した扉が金属の蝶番で回るように動くのではありません。根元付近の組織そのものが曲がり、先端の向きを変えます。多くの鱗片が中心の軸へ寄ることで、松ぼっくり全体が閉じた姿になります。
乾燥すれば水分が抜け、逆向きの変形が起こって再び開きます。拾った松ぼっくりでも動くのは、この仕組みが代謝や神経を必要としないからです。[3]
④ 乾いたときに種を放つ
⑤ 材料の動きをデザインへ

具体例は、シュトゥットガルト大学の「HygroSkin」(2013年)です。木材の吸湿・乾燥による変形を利用し、湿度に応じて自動開閉する壁の開口部を実験的に製作したパビリオンです。
その木片には、柾目のカエデ薄板を基にした複合材が使われています。それぞれの薄片は、幅広い基部が開口の周辺側、先細りの自由端が中央側にあります。乾燥すると自由端が開口面から起き上がって周辺側へ反り返り、中央の穴が露出します。湿度が高くなると、その自由端が中央へ戻り、穴を覆います。吸放湿による方向依存の寸法変化を用いるため、電気センサーやモーターで一枚ずつ動かす必要はありません。周辺側が保たれ、中央側の先端が動く様子は公式の湿度段階写真で確認できます。建物を支える大きな曲面合板と、開口を動かす薄い木片は別の部材です。[5]
形を固定するだけでなく、材料が変わる性質を働きとして取り込む。松ぼっくりは、その設計の考え方を示してくれます。この例は研究実証で、市販の建具ではありません。
二層モデルは、説明のための入口
図では、変形しやすい側と変形しにくい側を二層で表しました。ただし、実際の鱗片が、均質な板二枚だけでできているわけではありません。吸水による組織の軟化や、繊維束の配置も関わります。2025年の研究では、褐色の組織の中に繊維が分かれて配置される構造まで考慮すると、単純な二層モデルより実験の曲がり方をよく表せました。種、鱗片の位置、乾燥・吸湿の履歴によっても応答が変わります。[2]
ここで大切なのは、細胞の名前を覚えることより、同じ水分の変化でも、材料の構造が違えば変形の仕方が違うということです。
身近な松ぼっくりで観察する
拾ってよい場所で、茶色く成熟し、乾いて開いた松ぼっくりを一つ用意します。容器の水で湿らせ、同じ向きから間隔をあけて写真を撮り、その後は水から出して自然乾燥させて比べます。閉じ始める場所や、戻り方の違いに注目してみてください。これは観察の提案で、この記事のために実施した実験結果ではありません。
何分で閉じる?
一律には決められません。大きさや種類、ぬらし方、温度などで変わります。水に浸す実験と、空気の湿度だけを変える実験の時間を、そのまま比較しないようにしましょう。
種がなくても動く?
開閉をつくるのは鱗片の材料特性なので、種を放出した後でも動くことがあります。傷んだもの、塗装や接着剤が付いたものでは、同じ変化が見られるとは限りません。
まとめ|材料そのものが動きをつくる
松ぼっくりがぬれると閉じるのは、水分による伸び方の差が鱗片を曲げるためです。形だけでなく、組織の向きや配置までが働きに関わっています。小さな松ぼっくりは、生命がつくった材料からデザインを学ぶ入口になります。

参考資料・出典
- Dawson, Vincent & Rocca(1997)「How pine cones open」Nature 390, 668。成熟した細胞が死んでいること、相対湿度による開閉、Pinus radiata の観察。
- Ulrich ほか(2025)「Beyond the bilayer: multilayered hygroscopic actuation in pine cone scales」。組織ごとの方向依存性、二層モデルの限界。
- Reyssat & Mahadevan(2009)「Hygromorphs: from pine cones to biomimetic bilayers」。根元付近に集中する変形と吸湿性の二層材料。
- Eger ほか(2022)「The Structural and Mechanical Basis for Passive-Hydraulic Pine Cone Actuation」。鱗片組織の機械的・吸水特性と立体的な構造。
- シュトゥットガルト大学 ICD「HygroSkin: Meteorosensitive Pavilion」(2013)。湿度に応じる木質複合材料を使った研究パビリオン。
図解・文章:図解屋 / HB。出典確認:2026年10月18日。図は資料に基づく模式表現で、動きの速さは実際とは異なります。メインのスケッチにはAI生成画像を使用しています。



