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ざらざらしたサメの肌をヒントに、飛行機の表面へ細かな溝のあるフィルムを貼る技術があります。つるつるのほうが進みやすそうなのに、なぜ溝をつけるのでしょうか。鍵は、空気の流れに沿った「向き」と「小ささ」です。
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答えは、表面近くの空気の動きを整えるため
流れに沿って微細な突起と溝が並ぶ「リブレット」は、表面のすぐ近くで起こる横向きの流れを抑え、摩擦抵抗を減らします。その働きを飛行機用のフィルムに取り入れた例が「AeroSHARK(エアロシャーク)」です。
空気にも粘り気があり、機体に沿って流れるとき、進行を妨げる力が生まれます。小さな溝は、この力を小さくする手がかりになります。
5つの動く図解で見る、サメ肌から飛行機まで
1.歯のような鱗に小さな溝

小さな鱗の構造が最大の特徴です。サメの皮膚は、歯のような鱗「皮歯(ひし)」で覆われ、その表面には細かな筋や溝が見られます。遠目には一枚の肌でも、拡大すると、流れに働きかける立体的な構造があるのです。
ただし、生きたサメは体も皮膚も曲げながら泳ぎます。実際の皮膚の働きは、形だけでなく動きにも関係します。「サメはざらざらしているから速い」と一言で片づけず、まずは微細な構造に注目しましょう。[1]
2.流れと溝の向きが重要

細かな溝は、ただ表面につければよいわけではありません。流れが進む方向に沿って、溝を並べることが重要です。飛行機用のフィルムも、貼る場所を流れる空気の向きに合わせて配置します。
この配置によって、前後に進む流れと、溝を横切る動きに対して、異なる働きが生まれます。[2][3]
3.流れに沿う溝が横の動きを抑える

リブレットは、空気が進む方向に沿って並ぶ、ごく小さな山と溝です。前後の流れに対して、溝を横切る方向の動きは起こりにくくなります。
この方向による違いが、表面のごく近くでの乱流による運動量のやりとりを減らし、摩擦抵抗を小さくします。空気を完全にまっすぐ流すわけでも、乱流を消してしまうわけでもありません。[2]
4.微細な形を人工フィルムにする

リブレットとは、流れに沿って並ぶ、ごく小さな山と溝の構造です。AeroSHARKは、その構造を表面に加工した人工のフィルムです。Lufthansa Technikの2026年7月の説明では、リブレットの高さは約50μm。機体の胴体や、エンジンを包む外側のカバーなどに、空気の流れに合わせて貼り付けます。[3]
サメの皮膚を材料として使うのではありません。また、鱗の形を丸ごとコピーするのでもありません。水中の生物に見られる構造から着想し、空気中で使うために、溝の寸法や向き、材料を設計しています。
5.飛行機では燃料消費の低減に応用

飛行機に応用した場合、燃料消費を減らすことが狙いです。Lufthansa Technikが2024年10月3日に公表した例では、LATAMのボーイング777-300ERの1機が、2023年12月から日常の運航でAeroSHARKを使用。燃料消費量が約1%減ったと報告されています。[4]
この数字は、「溝のある面の摩擦が1%減った」という意味ではなく、機体で使う燃料についての値です。局所的な摩擦抵抗、飛行機全体の抵抗、燃料消費量は、それぞれ区別して読む必要があります。小さな表面の工夫が、実際の運航に使われていることが、この技術の面白さです。
飛行機だけではない、風車やヨットへの応用
リブレットは風車の翼にも応用されています。BASFなどの2022年の共同発表では、ドイツ・イルゼーデの1.3MW風車「SWT1300」にフィルム「Novaflex BladeUp」を施工し、約1年の測定で発電出力が最大3%増えたと報告されました。同じ発表で、同型機への初回施工契約も紹介されています。[BASF・Energiekontor共同発表]
水中での利用例もあります。NASAの1996年の記事は、1987年のアメリカズカップに出場したヨット「スターズ・アンド・ストライプス」の船底にリブレットが使われたことを紹介しています。[NASAの紹介記事]
空気にも水にも、表面近くの流れを工夫する発想を応用できます。ただし、燃料消費と発電出力は別の指標です。それぞれの数値は、対象と条件を分けて読みましょう。
もう一歩:どんな凹凸でもよいわけではない
大切なのは、凹凸をつけること自体ではなく、流れに合った形と大きさにすることです。リブレットを大きくしすぎると、かえって抵抗が増す場合があります。NASAが公開する数値計算の研究でも、溝の大きさによって抵抗低減から抵抗増加へ変わることが示されています。[5]
また、ここで扱うのは機体表面のすぐ近くの流れです。翼端から後方へ伸びる大きな渦を消す話ではなく、すべての空気抵抗をなくす技術でもありません。「表面近くの摩擦に、微細な溝で働きかける」と捉えると、効果の範囲がわかります。
生物の形を工業製品へ生かすときには、使われる環境の違いも重要です。水と空気、曲がる皮膚と硬い機体。その違いを踏まえて働きを取り出し、用途に合わせて作り直すところに、生命から学ぶデザインの工夫があります。
まとめ:小さな溝を、流れに合わせて使う
サメ肌に学んだ微細な溝は、表面近くの流れに働きかけ、摩擦抵抗を減らすための構造です。
- 効くのは、流れに合った向きと大きさの溝。
- 本物の皮膚ではなく、人工フィルムで働きを応用。
- 燃料約1%低減は、特定の実機についてのメーカー報告。

出典・参考資料
以下は仕組みと導入例を確認した一次資料です。数値は各資料の対象と公表時点に基づきます。確認日:2026年10月21日。
- Oeffner, J. & Lauder, G. V.(2012)The hydrodynamic function of shark skin and two biomimetic applications.サメの皮膚とその変形を含む流体力学的な働き。
- Ibrahim, J. I. ほか(2021)The smooth-wall-like behaviour of turbulence over drag-altering surfaces: a unifying virtual-origin framework.Journal of Fluid Mechanics, 915, A56.表面近くの乱流と摩擦抵抗低減の説明。
- Lufthansa Technik(2026年7月30日)Lufthansa Technik tests next-generation AeroSHARK.現行フィルムのリブレットの高さ、適用箇所の説明。
- Lufthansa Technik(2024年10月3日)Lufthansa Technik equips LATAM’s 777 aircraft with AeroSHARK.LATAMの運航実績と約1%の燃料低減に関するメーカー発表。
- Duan, L. & Choudhari, M. M.(2014)Direct Numerical Simulations of High-Speed Turbulent Boundary Layers over Riblets.リブレットの寸法と抵抗低減・増加の関係。
- Wen, Weaver & Lauder(2014)Biomimetic shark skin: design, fabrication and hydrodynamic function。皮歯の立体形状(Fig. 1・8)の参照。


