南極の氷の上で、ぎゅっと集まるコウテイペンギン。身動きが取れなさそうなのに、群れは少しずつ移動します。鍵は、一羽ずつの小さな一歩が周囲へ伝わることです。上から見た動きと、止まる時間に注目すると、密集したまま動ける仕組みが見えてきます。
出典:Zitterbart et al. 2011 観察研究

結論 小さな一歩が波のように伝わる
密集した群れの中では、周囲と無関係に大きく歩くことは難しくなります。コウテイペンギンでは、小さな移動のタイミングが周囲とずれることで、動いている場所が波のように移ります。その結果、近い並びを保ちながら群れ全体が進みます。
出典:Zitterbart et al. 2011 観察研究 / Gerum et al. 2013 数理モデルと映像解析
群れの動きを五つに分けて見る
1 体を寄せて熱を逃がさない

コウテイペンギンの雄は、南極の冬に卵を足の上で温めます。海へ餌を取りに行けない間、体に蓄えた脂肪で過ごします。体を寄せ合う「ハドル」は、寒さや風にさらされるなかで熱の損失を抑える行動です。密集することには、移動しにくくなるという側面もあります。
出典:Australian Antarctic Program 繁殖周期 / Zitterbart et al. 2011 観察研究
2 小さな一歩が始まる

群れは絶えず歩いているわけではありません。2011年の研究では、動かずにいる時間の間に、5〜10cmほどの小さな移動が約30〜60秒おきに見られました。これは特定の観察条件での値であり、すべての群れに共通する時刻表ではありません。GIFでは変化を見やすくするため、時間と移動量を模式化しています。
出典:Zitterbart et al. 2011 観察研究
3 周りも動いて距離を整える

一羽が動けば、近くの個体との位置関係が変わります。2013年の数理モデルでは、前の一羽だけでなく、直接隣り合う周囲の個体との距離から望ましい位置を求め、そのずれが一定以上になると歩き始めます。実際のペンギンが計算式を解くという意味ではなく、動きを少ない規則で説明するための置き換えです。この調整が次の隣へと続きます。
出典:Gerum et al. 2013 数理モデルと映像解析
4 波が伝わり群れが進む

一羽が群れの端から端まで走るのではなく、動き始める場所が波のように移っていきます。個体の移動と波の進行は別のものです。観察では、群れの内側で隣り合う関係が大きく崩れず、小さな移動が繰り返されました。波が伝わると、近い並びを保ったまま群れが少し進みます。各個体が隙間をこじ開けて進む絵とは違います。
出典:Zitterbart et al. 2011 観察研究 / Gerum et al. 2013 数理モデルと映像解析
5 止まる時間と一歩を繰り返す

群れはずっと歩き続けるのではなく、動かない時間と小さな移動を繰り返します。グラフの横軸は時間、縦軸は一羽の位置です。水平な区間が停止、斜めの区間が小さな前進を表します。実測値を示すグラフではなく、波の速さを示すものでもありません。止まる時間と一歩の違いを見やすくした模式表現です。
出典:Zitterbart et al. 2011 観察研究
車の渋滞と、どこが似ている?
前の車が動き、後ろの車が順に発進する場面では、車が進む向きとは逆に「動き始める場所」が伝わります。似ているのは、近くの相手への反応が次へつながる点です。2013年の研究は、交通流モデルを拡張してペンギンの波を説明しています。
出典:Gerum et al. 2013 数理モデルと映像解析
ただし同じ仕組みではありません。この論文の車のモデルは前方の車との関係を扱い、ペンギンのモデルは周囲の隣との関係を扱います。ペンギンの波は後方だけでなく、前方や横にも伝わります。個体が歩く向きと、波が広がる向きは分けて見ることが大切です。
出典:Gerum et al. 2013 数理モデルと映像解析
密集と移動を両立する空間
この群れを「一つの固いかたまり」として眺めるだけでは、小さな動きを見落とします。個体どうしの関係を見ると、密な配置を保つ時間と、短く動く時間が共存しています。これは、形そのものだけでなく、要素の関わり方から空間を読む視点です。建築や人の群衆へ、そのまま安全設計の規則として転用できるという意味ではありません。
よくある疑問
群れの外から中央へ順番に交代するのですか
全員が決まった順番で輪のように回る、と単純化はできません。群れの形成や解散、端での出入りなども関係します。今回の図が扱うのは、密集した群れの中を小さな一歩が伝わる現象です。
出典:Zitterbart et al. 2011 観察研究
先頭のリーダーが動かしているのですか
特定のリーダーが毎回指揮することを前提にはしません。2013年の研究では、群れの内部を含むさまざまな場所から波が始まることが映像解析で確かめられました。最初の一歩を何が引き起こすかは、その研究では解明されていません。
出典:Gerum et al. 2013 数理モデルと映像解析
まとめ 一羽の一歩を群れの動きへ
密集したペンギンが動けるのは、小さな移動を周囲へつなげられるからです。観察するポイントは、歩幅の大きさよりも、どこがいつ動くか。止まっているように見える群れにも、個体どうしの関係がつくる動きがあります。

参考資料
Australian Antarctic Program 繁殖周期
図解は仕組みを説明するための模式表現です。ペンギンの描画にはAI生成素材を用い、配置・動き・説明を編集しています。


