丸い背もたれの下が、きゅっと細くなったアントチェア。あのくびれは、座面と背もたれを一体に曲げるための工夫です。9層の薄い木、3本の脚、積み重ねられる形をたどりながら、アルネ・ヤコブセンの椅子があの姿になった理由を見ていきましょう。

先に答え:座と背を一体に曲げるため
座から背へ強く曲がるつなぎ目を細くし、成形時に単板が反り上がる問題を解決するためです。幅を絞ることで、座と背がひとつながりの曲面をつくりました。
くびれのある姿が蟻(アント)を思わせることから、『アントチェア』と呼ばれています。[1][2]
形の理由を5つに分けて見る
1. 座と背がひとつながり
座面から背もたれまで、ひとつながりの成形合板でできています。このように薄い面でつくられた立体的な部分を「シェル」と呼びます。
横から見ると背が立ち上がり、正面から見ても座と背の面がゆるやかに湾曲しています。合板を二方向に曲げた曲面が、椅子の強度に重要だったとArne Jacobsen公式は説明しています。[4]

2. 9層の単板を重ねて成形
シェルをつくる材料は、薄く切り出した木の板「単板」です。メーカーの製品資料によると、内側にブナを7層、表と裏に仕上げの単板を1層ずつ使います。表1+芯7+裏1で、合計9層です。
接着剤を使って9層を貼り合わせ、圧力をかけて座と背の曲面に成形します。座と背はひと続きでも、材料の中には何枚もの木が重なっています。厚い無垢材を削り出すのとは異なるつくり方です。[3][7]

3. 成形時に板が反らないよう、くびれをつくる
難しかったのは、座から背へ曲がる部分です。フリッツ・ハンセンの歴史解説には、このつなぎ目を曲げる力で9層の単板が反り上がった、とあります。解決策は、くびれに沿って材料を減らすことでした。
ここで避けたい「反り」は、設計したカーブとは別の、成形中に生じる変形です。正面から見ると幅の細い部分が、側面では強く曲がる位置に当たります。くびれは、座と背を一体に曲げる方法と結びついています。[1][2]

4. 原型は3本脚、今は2タイプ
1952年の原型は、3本脚の3100です。前の中央に1本、後ろの左右に2本の脚があります。ヤコブセンはこの構成を支持し続け、形と使う材料をできるだけ絞ろうとしました。
4本脚のタイプも後に開発され、1971年にヤコブセンが亡くなった後、標準商品になりました。現在は、3本脚の3100と4本脚の3101の両方が現行モデルです。[1][3][5][6]

脚の数や仕上げを比べるときは、メーカーの3100(3本脚)と3101(4本脚)の製品情報も確認できます。
5. 重ねて片づける
椅子を重ねられることも、形を考えるうえで大切な条件でした。ヤコブセンは1953年のインタビューで、小さな住まいに合う軽い椅子を目指し、食堂では積み重ねて使えるようにしたと話しています。
食堂の床を洗うときには、椅子を片づける必要があります。使うときは一脚ずつ並べ、使わないときは重ねて床を空ける。座る場面と片づける場面の両方を考えた椅子です。[2][4]

使っている人の感想:形・座り心地・安定感
購入して使った人の感想から、選ぶときの手がかりを紹介します。吹き出しは原文の引用ではなく、図解屋による要約・再構成です。
すっきりした脚と、原型を使う楽しさ
3本脚は足元がすっきりして、椅子の出し入れもしやすい。オリジナルのデザインを使えることも、気に入っているポイント。
小ぶりでも、体に自然にフィット
座面が小さく見えて少し気になったけれど、座ってみると背中にもお尻にも自然になじんだ。太ももの裏が当たりにくいのもよかった。
座面の心地よさと、安定感は分けて見る
座面の心地よさは、3本脚でも4本脚でも大きな違いを感じなかった。3本脚は姿勢を変えると揺れることがあるので、安定感を重視するなら4本脚が合いそう。
食堂で生まれた椅子に、「アント」の名前がつくまで
アントチェアが発表されたのは1952年10月。最初に使われたのは、デンマークの製薬会社Novo Terapeutisk Laboratorium(現在のNovo Nordisk)の新しい食堂でした。
Antは英語で「蟻」。メーカーの歴史解説では、1953年の展示をきっかけに注目が集まったころ、スウェーデンの書き手が黒い3100の姿を蟻にたとえ、その呼び名が広まったとされています。成形の工夫から生まれたくびれが、名前にもつながったのです。[1][2]
よくある疑問
アリンコチェアとは別の椅子?
同じ椅子を指します。フリッツ・ハンセンの日本語公式サイトでも、Antを「アリンコチェア」と紹介しています。[3]
まとめ:くびれは、一体成形から生まれた
アントチェアのくびれは、座と背を一体に曲げるときの反りを避けるための形です。
- 9層の単板を貼り合わせ、圧力をかけて成形する
- 強く曲がるつなぎ目の幅を絞る
- 原型は3本脚。現行は3本脚と4本脚の2タイプ
- 使わないときは重ねて片づけられる

木の曲げ方や部材のつなぎ方を、もう一脚の椅子でも見てみたい人は、Yチェアはなぜあの形なのか?へ。Y字の支えと曲木の役割を紹介しています。
参考資料・出典
- Arne Jacobsen Design「The Ant」
くびれ・二方向の曲面・1952年の原型・ヤコブセン没後の4本脚標準化 - Fritz Hansen「Arne Jacobsen & Fritz Hansen」内、Michael Sheridan「A radical debut – 70 years of the Ant」
成形時の課題とくびれ・床の清掃・呼び名の由来 - Fritz Hansen「アリンコチェア」
9層の成形合板、名称、3本脚と4本脚の展開 - Arne Jacobsen Design「The original shell chair」
座と背の一体化、二方向の曲面、家庭・食堂と積み重ね用途 - Fritz Hansen「Ant chair, 3 legs – 3100」
3100の3本脚モデル。配置は公式写真・製品図と照合 - Fritz Hansen「Ant chair, 4 legs – 3101」
3101の4本脚モデル。標準化年代は資料1を主に参照 - Fritz Hansen「Ant Product Fact Sheet」p.2–3(メーカー発行、Olson and Baker配布)
内側ブナ7層+表裏2層、接着剤、加圧成形 - ciromedia「アント(アリンコ)チェア/3本脚と4本脚はどっちがおすすめ?」(2021年11月12日)
両タイプを購入した直後の使用感。座面の心地よさと、姿勢変更時の揺れに関する感想を要約


